2013年5月31日金曜日

ジュール・イザーク Jules Isaac





新装81号「ほかに神があってはならない」好評発売中






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翻訳・編集の過程で調べなければいけないことは、語の意味以外にも多くある。

一番悩ましいのは人名など固有名詞のカタカナ表記だが、原著者が当然のことのようにして括弧付きで持ち出してくる専門用語風の言葉は問題ではあるけれども調べ甲斐がある。その語の先に思わぬことが潜んでいることもある。

こうした語そのものについては本論ではほとんど説明はなく、「よく知られていること」という前提で短いコメントが付され、それが本論に関わってくることが多い。

否定的なことを仄めかしているのか、説明の必要もないほど常識的なことなのか。

言葉の額面は逆のことを示している可能性もある。だからこそ、括弧付きで仄めかしたりするのだろう。


今回はジュール・イザークの「侮蔑の教え」にまつわること(81号『ほかに神があってはならない』52頁)。 

原語の「teaching of contempt」に定訳はないようで、「侮蔑の教え」という訳を採用したが、欧米ではこの語がキリスト教信仰の文脈で意味していることは説明の必要がないことであるらしい。

論文末に「イザークは反ユダヤ主義はキリスト教の教えに原因があると主張した」と訳注をつけたが、こういう主張そのものは日本でも知られていないわけではない。

ただ「侮蔑の教え」という言葉から連想されることではない。もちろん、ジュール・イザークという名も非常によく知られた名というわけではない(アイザック、イサークと変えていった末に、印刷直前に「イザーク」に差し替えた。後述)。


引用されていた書籍は主要な大学の図書館にはなく、ネット上の原書へのレビューが参考になった。カトリックの教えを古代から丹念に調べ上げ、そこに潜む反ユダヤ的傾向を指摘したものであるらしい。非常に興味深い。

この手の本は邦訳されていてもいいような気がするが、「反ユダヤ」についての本は訳されても、「反ユダヤのキリスト教」がテーマではやはり避けられるようだ。

著者は1963年に亡くなっており、版権もおそらく来年には切れる。手頃な厚さの本。どなたか訳さないか。


Jules Isaac, The Teaching of Contempt: Christian Roots of Anti-Semitism, New York: Holt, Rinehart and Winston, 1964. 

外国の中古市場でしか見つからなかった








Gesù e Israele
 (この本をもとに上の本は書かれた)







この手のことを研究している日本人がいそうなものと思って検索してみたが、問題はJules Isaac という名前であった。カタカナ表記が不安定だと検索にかかりにくい。しかも「ジュール」も「イサーク」も非常に多い名前。なかなか当人の情報が集まらない。

さらに悪いことには、アニメのガンダムシリーズに「イザーク・ジュール」なる登場人物がおり、グーグルでの検索の大部分はこの人物のもの。宗教関係の固有名詞はアニメなどで用いられることが多く、こういうときは非常に厄介。

ふとしたきっかけで、別の検索エンジンをつかってみると、今まで見たことのなかったエントリーがいくつか上位に並ぶ。 検索語が多少違っていたのかもしれない。

この検索で、菅野賢治さんという東京理科大の先生がジュール・イザークの周辺を研究しているということがわかり、フランス留学経験がおありということで、Jules Isaac のカタカナ表記も確証を得た。関連する訳書が数冊ある。

  


右の『イスラエルとは何か』(平凡社新書)が値段も手頃で、さらなる探求の入口としてはよさそう。『反ユダヤ主義の歴史』は五巻の大作。

ユダヤ教とキリスト教の関係についての研究には、もっと注目しておいた方がよさそうだ。さらには反ユダヤ主義とシオニズム。

【追記6/3/2013】
『インタープリテイション』 でも22号に「ユダヤ教とキリスト教の対話」という特集が組まれている。1993年7月刊。すでに20年前。他宗教との関係については、近刊84号86号が扱う。来年2月と8月の予定。


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