2013年12月27日金曜日

異本をめぐって



〈異本をめぐる詩学について〉

エレミヤ書の伝統的なヘブライ語本文(マソラ本文)と古いギリシャ語訳(七〇人訳聖書)を比較すると、おそらくはギリシャ語訳に用いられたヘブライ語本文の段階で本文上の相違と異本の存在という複雑な構図があったことが分かる。

異本によって改訂があったことが示されるということは複数の版が流布し、読まれていたことを意味する。

ひとつの版が孤立して存在していたということはなく、ひとつの版がまるごと他の版で置き換えられるということもなく、ひとつの版が独り言のようにして成立するというようなこともあり得なかった。



ピート・ダイヤモンド「対話」83頁 (インタープリテイション82号「エレミヤの肖像」)


 
特 集

エレミヤの肖像

第82号 2013年8月
定価2000円+税
 

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2013年12月23日月曜日

教会暦と聖書日課 


アドベント第一主日に説教壇から「新年おめでとう」と告げる説教者はめったにいないだろうが、この典礼期節を始めるのに最もふさわしい挨拶といえよう。

しかし、最も典礼を意識している会衆であっても、アドベントにそれ自体としての神学的、牧会的な位置を保たせ、クリスマスを迎えるための単なる準備運動的な活動に過ぎないと思わせないようにすることは難しい。

アドベントの聖書日課、ことに第一主日の日課は、たいていの会衆には馴染みがないか、当惑させられるものでさえあるように思われる。

〔一一月下旬の〕感謝祭が終わるや否やクリスマス・キャロルを歌い、またクリスマス用の常緑樹で教会の聖堂を飾りつけなければならないというプレッシャーの下、説教者には会衆にアドベントの終末のヴィジョンに入るよう促すのがいっそう難しくなる。

とはいえ、この終末のヴィジョンがなければ、クリスマスの祝賀は世界に与えられる神の希望の大胆な上演ではなく、単なるノスタルジアと感傷の場になりかねない。


聖書日課がもつ力のひとつは、キリスト教の物語について神学上、語るべきことがすべての面にわたって見通せるように、聖書のテクストと教会暦を絡み合わせられることにある。


聖書日課の動き、ことに受肉と過越のサイクルにおける動きはキリスト教の物語の動きである。

すでに見てきたように、キリスト教の物語に対してアドベントがなす本質的で明確な貢献は、それが時の中心性と聖性を際立たせるということである。

アドベントについて効果的に説教し、その終末の約束の中にあるよき知らせを言い表すためには、説教者はこの期節が描く円弧全体の意味を理解しなければならない。

それを理解することで、この期節がもつ軌道をそこに個々の主日の聖書日課を配置する背景にすることができるのである。
 


ゲイル・オデイ「未来に戻れ ― アドベントの終末論的ヴィジョン ―」(インタープリテイション83号、2013年)7-8頁より

 



特 集

アドベントと典礼

第83号 2013年11月
定価2000円+税



2013年12月6日金曜日

「もうひとりのイエス」

Daniel Boyarin, The Jewish Gospels: The Story of the Jewish Christ

勝手に邦題をつけてみた。ちょっとセンセーショナルすぎかもしれない。実直に訳せば「ユダヤの福音書 ユダヤ人キリストの物語」。

先日、銀座のK文館で「今度、邦訳を出す」という話を伺い、原書をぱらぱら見てみる。おもしろそう。

イエスの誕生以前のユダヤ教文献に「死んでから三日目に甦ったメシア」の到来を予見するものが見つかったという。黙示文学の系譜に属す文献らしい(ちゃんと見てません)。

その発見から、ユダヤ教の中にキリスト教の起源を探るといった感じで話は進んでいくようだ。知的好奇心をくすぐられる。

前に紹介したレヴァインの本よりも本格的な感じはする。本格的でも分厚くないところがよい。224頁。邦訳になると300頁は超えるだろうか。そこに訳者による長い解説がつくそうだ。

著者ボヤリンには一度、会ったことがある。 学会の途中に講演の依頼をしようとしたのだが、「二年先まで予定はいっぱいだよ」とまともに取り合ってもらえなかった。なにやら軟派な雰囲気が漂っていた。ちゃんとしたタルムード学者ですが。

「ユダヤ教から見たキリスト教」をテーマにした本はあまり多くはない。日本ではまあ、需要がほとんどないのだけど、それゆえに、目新しい。邦訳の出版が楽しみである。

そういう中で、新約聖書にユダヤの視点から解説を加えた本が出ていた。最近「annotated」という語がタイトルについた本が多くなっているように思う。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/0195297709/ref=as_li_tf_il?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=0195297709&linkCode=as2&tag=mmiyas-22The Jewish Annotated New Testament

前出のレヴァインが編集をしていて、新約の本文はNRSV。 主要な新約の概念がユダヤの視点から改めて解説されている。

ほぼ衝動買いで、Kindle版を購入。安い。タブレットではなくて、主としてPCで使う場合はアメリカのAmazon経由にする必要がある。

リンクなどの仕方にまだまだ改善の余地はあるように思うけれども、電子書籍はかなり気軽に買えるようになってきた。端末も安い。紙への愛着のようなものはあるけれど、電子版は半額以下だったりする。洋書でアメリカのAmazonだとさらに安い。マイナーな分野でも英語の本はマーケットが広いからだろうか。ボヤリンの本も安いのだ。

でも、まあ、それはそれ。邦訳は楽しみ。邦題も楽しみ。
 

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